説明
円形に広がった黒い点の群れが回転しています。その中を、赤い点が行ったり来たりしています。円形の中心に達するまで、二つの赤い点は、水平方向に近く運動し、すれちがうようにみえますね。しかし中心でぶつかってしまいます。
逆に外側に動く時は垂直方向に近く動くようにみえます。実際には赤い点は斜45度方向の直線上を往復運動しているのです。黒い点と赤い点は直交する方向に運動しています。すなわち黒い点の運動からみると赤い点はとまっているのです。この時黒い点の運動の影響で、赤い点は黒い点の運動と反対方向の運動が誘導されます。運動の対比現象です。
動画を再生してしばらくすると、運動する黒い点が消えます。黒い点がないと、赤い点が実際どのように動いているか、よくわかりますね。
身近な例では月夜に雲が流れると月が反対方向に動いて見えますね。視野のなかで主要な要素がそろって運動すると、あたかもその要素全体が基準になり、運動の静止点がずれるわけです。
この錯視は、「明るさの対比」や「色の対比」と同じ、対比効果(たいひこうか)です。つまり、周りのパターンの影響を受け、中心のパターンが周りとは反対方向に見えるのです。「明るさの対比」で詳しく説明したように、視覚システムに備わっている「側抑制(そくよくせい)」というメカニズムが、このような対比を生み出していると考えられます。「明るさの対比」では、明るさに反応する神経細胞群による側抑制を考えましたが、この「運動の対比」では、パターンの動きに応答する神経細胞群が、近隣の神経細胞群を抑制していると考えられます。対比は、いま見ているものと、その周囲との違いをより明確にしてくれるのです。
対比とはちょうど逆の、「同化」と呼ばれる現象もあります。「運動の同化」をみてください。
参考文献
- Tynan, P. & Sekuler, R. (1975) Simultaneous motion contrast: velocity, sensitivity and depth response. Vision Research, 15, 1231-1238.
デモについて
- デモの操作方法については、使用方法のページをごらんください。