説明
まずは動画を再生すると、二つの円形のパターンが動き始めます。左側のパターンは遠くに後退し、右側のパターンはこちらへ接近しているように見えます。目を動かさずに、二つのパターンの真ん中にある十字形を見つめてください。10秒後にパターンが自動的に静止します。何が起きるでしょうか。しま模様が、動いていた方向とは逆向きに動いて見えませんか?左側のパターンはこちらに接近し、右側のパターンは遠くへ後退していくような印象です。これは目の錯覚です。錯覚があまり感じられなかった、という方は、できるだけ目を動かさないようにがんばってください。
ここで感じられた錯視は、運動への順応(長く見続けること)に伴う残像であり、「運動残効(うんどうざんこう)」と呼ばれています。滝を長く見た後に、隣の木々などに目をやると、それらが上へ動く錯覚が見えるということから、「滝の錯視(waterfall illusion)」と呼ばれることもあります。錯覚を引き起こす運動は上下左右どの方向でもよく、回転するものを見つめていても起きます。このデモのように、拡大運動や縮小運動する映像に順応すると、とても強い運動残効が経験できます。
なぜこのような残効が見えるのでしょうか。脳の視覚システムには、運動の検出にかかわる神経細胞がたくさんあり、それぞれの神経細胞には、自分が得意な「方向」や「速度」があります。これらの神経細胞は、たとえ動くパターンが提示されていない時でも、自発的に一定の出力をだし続けています。そして、自分にとっての得意なパターン、例えば右斜め上に速く動くパターン、が提示されたときには、出力がより大きくなります。私たちが認識する動きの方向や速度は、これらの神経細胞群を基盤とした神経メカニズムにおける応答の総和に対応すると考えられます。
さて、一定の運動を見続けると、それまで活発に出力していた神経細胞は順応により、出力が小さくなります。このとき映像を静止させると、反対方向の運動を検出する神経細胞からの出力が「相対的に」大きくなり、結果として反対方向の運動が見えるのです。
参考文献
- Mather, G., Verstraten, F., & Anstis, S. (1998). The motion aftereffect: A modern perspective. Cambridge, Mass: MIT Press
デモについて
- デモの操作方法については、使用方法のページをごらんください。