説明
サンフランシスコの科学博物館Exploratoriumには、「ベルベットハンド」という名前のついた金網が展示されています。特別な金網ではなく、公園のフェンスなどに使われるようなどこにでもある金網です。この金網を両手ではさんで前後にこすると、手のひらにぬるぬるとした不思議な触り心地を感じます。Exploratoriumの展示では、この錯触をベルベットのような触り心地と表現しています。もしかしたらテニスラケットやバドミントンラケットのガットで同じような経験をした人もいるかもしれません。
この錯触を起こすためには、必ずしも金網やラケットのようにたくさんのワイヤが編み込まれている必要はなく、並んで固定された2本のワイヤがあれば十分なことが明らかになっています。また、動画のように穴をあけた厚紙でも錯覚が起こることもわかっています。
この錯触がなぜ生じるのかは未だに明らかになっていません。現在提案されている仮説として、触り心地が混ざるという説明と、触り心地がわからなくなるという説明があります。触り心地が混ざるという説明では、金網が動いたときに金網の硬い触り心地と自分の手の皮膚の柔らかい触り心地が脳の中で混ざってしまって、金網が柔らかくなったように感じると考えられています。触り心地がわからなくなるという説明では、金網でこすられたときに手のひらの感度が下がり、金網の粗さが感じられなくなってしまうので、相対的に金網をなめらかに感じると考えられています。どちらの仮説にしても、人間が効率よく生きていく上で役立つ現象というよりは、人間が持つ触覚の機能が予想外の事態に直面したことで生じてしまう現象といえそうです。
参考文献
- Mochiyama, H., Sano, A., Takesue, N., Kikuuwe, R., Fujita, K., Fukuda, S., Marui, K. and Fujimoto, H. (2005). Haptic illusions induced by moving line stimuli. Proc. World Haptic Conference,645–648.
- Pasqualotto, A.,Yin, C. C. J., Ohka M. and KitadaR.(2020)The effect of object compliance on the velvet hand illusion.IEEE Transactions on Haptics, 13, 571-577.
- Yokosaka,T., Kuroki, S. and Nishida, S. (2021) Describing the Sensation of the 'Velvet Hand Illusion' in Terms of Common Materials. IEEE Transactions on Haptics, 14, 680-685.
- Hidaka, S.,Suzuishi,Y. and Kitagawa, N.(2018) Investigating the effects of tactile masking and surface texture on the velvet hand illusion.Perception, 47, 1070–1080.
デモのながれ
[1]. 厚紙の中心を切りぬきます
[2]. 厚紙の切りぬいた部分を両手ではさんで持ちます
[3]. 他の人に厚紙を動かしてもらいます
[4]. ごしごしごし...
[5]. 手のひらの間に不思議な触り心地が感じられてきます
[6]. どんな感触がするのでしょう?ぜひ試してみてください!
デモについて
- デモの操作方法については、使用方法のページをごらんください。
- 錯触デモを試される際には、皮膚・身体等に痛みやダメージを与えないよう、刺激強度、刺激方法、道具の操作にお気をつけください。