説明
常温の物体と冷たい物体を持ち比べてみると、質量は同じであっても冷たい物体のほうがより重く感じられます。この錯触の原型は150年以上前にErnst Heinrich Weberという著名なドイツの生理学者によって発見されました。Weberは額の上に冷たい硬貨を置くと、常温の硬貨よりも重たく感じられることを報告しています。その後100年以上経ってから、額だけでなく、手や前腕などのその他の身体部位でもこの錯覚が生じることや、温かい物体(38-45°C)でも常温の物体よりやや重く感じること、ただし冷たい物体のほうが温かい物体よりも強い錯覚を起こすこと、などがわかってきています。
なぜこのような錯触が生じるのでしょうか?一つの可能性として、皮膚の中に存在する機械受容器(センサ)のうち、持続的な皮膚変形に反応する機械受容器が冷やされることでも反応することが原因ではないかという説が提案されています。つまり、皮膚に圧がかかったときに反応する機械受容器の働きが、冷やされることで更に活性化されて、余計に強く圧がかかって感じられるのではないか、という説です。実際、このセンサの働きが弱まるような状況では、温度による重さの錯覚が弱くなることが報告されています。ただし、錯覚が完全に消えるわけではなかったので、他の機械受容器もこの錯覚に関与しているのではないかと考えられています。
参考文献
- Stevens, J. C., & Green, B. G. (1978). Temperature–touch interaction: Weber's phenomenon revisited. Sensory Processes, 2(3), 206–219.
- Stevens, J. C. (1979). Thermal intensification of touch sensation: Further extensions of the Weber phenomenon. Sensory Processes, 3(3), 240–248.
- Stevens, J.C., & Hooper, J.E. (1982).How skin and object temperature influence touch sensation. Perception & Psychophysics,32, 282–285.
- Galie, J., & Jones, L. A. (2009). Thermal cues and the perception of force. Experimental Brain Research,200, 81–90.
- Lederman, S. J., & Jones, L. A. (2011). Tactile and Haptic Illusions. IEEE Transactions on Haptics,4(4), 273–294.
- Dunn, J. S., Mahns, D. A., & Nagi, S. S. (2017). Why does a cooled object feel heavier? Psychophysical investigations into the Weber’s Phenomenon. BMC Neuroscience,18, 4.
デモのながれ
[1]. 同じ重さの物をふたつ用意します
[2]. 片方は冷蔵庫や冷凍庫で冷やし、もう片方は常温のままにします
[3]. 両手に持って重さを比べてみます
[4]. 冷えている物のほうが重く感じられます
[5]. ぜひ試してみてください!
デモについて
- デモの操作方法については、使用方法のページをごらんください。
- 錯触デモを試される際には、皮膚・身体等に痛みやダメージを与えないよう、刺激強度、刺激方法、道具の操作にお気をつけください。