説明
水色と赤色の円の間にある十字を10秒ほど見つめた後、十字から目をはなさず、「すすむ」を押すか、画像を左にスワイプして2枚目の画像に進んでください。すると、黒い輪郭線で囲まれた白い円に、とても鮮やかな残像(ざんぞう)が見られます。これが「色の残効(ざんこう)」です。「残効」とは、ここでは残像のことを指す専門用語です。もう一度「すすむ」を押すか、画像を左にスワイプして3枚目の画像に進むと、ふたたび色の付いた円が現れます。
1枚目とは色が変わっていますが、パターンの色を変えると、残像の色が変わるはずです。「すすむ」を押すか、画像を左にスワイプして画像を進めて、どのように変わるか、ぜひ観察してください。
「色の残効」は、一つ前のデモで紹介した「色の対比」と深く関係しています。色の対比では、中心の灰色と周辺のパターン(赤い四角と水色の四角)が空間的に離れていましたが、「色の残効」では、パターンと白い領域(残像が見える領域)が時間的に離れて提示されています。これが「色の対比」と「色の残効」の違いです。
すこし難しい話になりますが、目から入ってきた光の情報に対して、まずは網膜にある錐体(すいたい)という光センサーが反応します。これが下の図の第1段階です。錐体には、L錐体、M錐体、S錐体という3種類があります。長波長(Long)、中波長(Middle)、短波長(Short)にそれぞれの反応のピークがあるため、その名で呼ばれています。錐体からの信号は、さらに網膜や、あるいは脳の奥の方へ運ばれます。そして、色の場合、第2段階では、「赤-緑」、「青-黄」という二つの組、すなわち反対色に変換されます(「-」はマイナスの意味です)。錐体から信号を受ける網膜の神経節細胞や大脳皮質の神経細胞において、錐体からの出力が引き算されることにより、反対色が作り出されているのです。(ちなみに、明るさ(輝度)の信号は、足し算によって作られます)
例えば「赤-緑」の反対色チャンネルとして働く神経細胞は、赤色のパターンが出ると強く応答する一方、緑色のパターンが出ると、応答が大きく減少するのです。その逆、つまり「緑-赤」として働く神経細胞もあります。
「色の残効」は、図の第2段階にみられるような信号の変換が行われる心理学的な証拠です。赤色を見つめていると、「赤-緑」の情報処理を受け持つ神経細胞は、「赤がでている!」という反応をしめします。赤色が出続けていると、やがて、「赤がでている」という反応が弱まってきます。これを専門用語で「順応」と呼びます。順応のために、「赤-緑」や「緑-赤」といった反対色チャンネルとして働く神経細胞のバランスがくずれ、(画面には緑色は出ていないのですが)緑色の信号が強く出るようになります。このとき赤色の刺激を画面から消してしまうと、結果的に、無彩色(白色や灰色)の画面に緑が見えるようになるのです。緑といっても、正確には青緑あるいは空色に近い色です。青色や黄色の場合も同様です。このように、「色」は私たちの脳が作り出しているのです。
なお、上図のように、赤と緑、青と黄は互いにペアになっており、このような二組のペアが色の知覚のもとになっている、という「反対色」理論をとなえたのはドイツの生理学者へリングです。ヘリングの反対色のモデル(下図の左)では、赤と緑、青と黄色の二組のペアが組み合わさっています。重要なのは緑と赤、そして青と黄色は絶対に交わらないことです。これは、「赤っぽい緑」、あるいは「青っぽい黄色」といった色が存在しない、という、私たちの日常の実感とみごとに一致しています。また、下図右に示した「色相環(しきそうかん)」もヘリングのモデルから説明できる、ということになります。ヘリングのモデル(下図左)において、環の各位置にある色を混ぜ合わせると、右隣の色相環にとても似てきます。
ヘリングは、錯視図形も発表しています。「へリング錯視」のデモをご覧ください。
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