説明
このデモの音は、ダミーヘッドと呼ばれる、マネキンの頭部の左右の耳の部分にマイクを埋め込んだもので録音されています。Aは綿棒で耳をくすぐられている音です。Bはビニールの緩衝シートを頭のまわりにかぶせてグシャグシャされている音です。Cは蜂が頭のまわりを飛び回っている音です。Dは右後ろからささやかれている音です。ふつうのCDなどをヘッドフォンで聴いているときと違って、耳のそばや頭のまわりで生々しく音が聞こえるのではないでしょうか。
人間が音源の位置を判断する際には、さまざまな音の特徴を利用しています。左右方向の判断では、音源からの音波が両耳に到達する時間差(周波数成分の位相差)や、頭の陰で音波が減衰することによる音圧レベル差が主な手がかりになりますが、それだけでは上下方向や奥行き方向の位置はわかりません。
上下方向や奥行き方向の手がかりになるのは、聴取者の頭や耳で音波が複雑に反射したり回折したりすることによるスペクトルの変形効果です。このデモはダミーヘッドの耳の中にマイクを仕込んで録音されているので、ダミーヘッドの頭や耳によるスペクトルの変形効果を反映しています。だから、単に左右だけではなく、あたかも耳のそばとか、頭のまわりとかで音がなっているような感じが再現できるのです。
ただし、頭や耳の大きさや形は人それぞれなので、スペクトルの変形効果も、厳密にはひとりひとり異なっています。たまたま録音に使われたダミーヘッドとよく似た頭や耳の人はよいのですが、そうでない人には、ちょっと違和感があるかもしれません。後ろが前に聞こえたり、顔の正面が上に聞こえたりすることもあります。
うまくいけば、このデモの音を聞いていると、単に音の位置がわかるだけではなくて、くすぐったい感じや、うっとうしい感じまでもが体験できるかもしれません。頭に近い空間では、音が触覚的な感覚をもたらすのです。
(『音のイリュージョン』p.53-54)
参考文献
- 「音のイリュージョン ― 知覚を生み出す脳の戦略 ―」 柏野牧夫著 岩波書店 2010年
デモについて
- デモの操作方法については、使用方法のページをごらんください。
- 錯聴デモを使用される際には、耳にダメージを与えないよう、お使いのデバイスの音量設定を最適な状態にしてからおためしください。