説明
自分の手を衝立の裏に隠し、代わりに偽物の手を目の前に置きます。そして協力者に、自分の手と偽物の手を全く同じタイミングで、ペンで叩いたり絵筆でなでたりしてもらってください。偽物の手をじっと眺めていると、だんだん叩かれたり撫でられたりという触覚体験が偽物の手の上で生じているように思えてくるかもしれません。人によっては、偽物の手が自分の身体の一部になったように感じてしまうこともあると言われています。錯覚が起こるまでには少し時間が必要で、起こりにくい人だと数十分かけてようやく起こることもあるそうです。この錯覚が起こりにくい場合は、自分の手と偽物の手をなるべく近くに置いたり、リアルなマネキンの腕を使ったり、自分の肩と偽物の手がつながって見えるように布をかけてみたりするとよいかもしれません。
このような現象は1937年の時点で人工指を用いて報告されていたのですが、1998年のゴムでできた手をつかった錯覚の論文が大きく注目を浴びたことから、ラバーハンド錯覚と呼ばれています。
ラバーハンド錯覚が起こることから、人間は複数の感覚情報の間に相関を見出すと、そこに密接な関係があると学習してしまうのではないかと考えられます。偽物の手と実際の手が触られると、実際の手が触られているという触覚的な情報と、偽物の手が触られているという視覚的な情報が同時に得られます。このとき、これらの手がすぐそばに隣り合っていて、かつ、触られるタイミングも同期しているので、それらの触覚情報と視覚情報の間に高い時空間的な相関が見出されます。この相関が高いときには、偽物の手が触られるという出来事と自分の手が触られるという出来事の間に密接な関係があるはずだと推測できます。このような密接な関係を学習することが、自分の手が触られるという出来事が偽物の手の上で生じているという経験を生み出しているのかもしれません。
この錯覚では偽物の手が触られたという視覚的な情報が関与していますが、必ずしも視覚的な情報は必要ではありません。例えば目隠しをして、自分の右手でゴムの手をなぞり、そのなぞり動作に同期させるように協力者に自分の左手をなぞってもらうと、まるで自分の右手で自分の左手をなぞっているように感じられることが報告されています。この場合は右手における触覚情報や手の動きの情報と、左手における触覚情報の間に相関が見出され、それらの関係が再構築されている現象であると考えられます。
参考文献
- Botvinick, M., & Cohen, J. (1998). Rubber hands ‘feel’ touch that eyes see. Nature,391(6669), 756–756.
- Tastevin, J. (1937). En partant de l'expérience d'Aristote les déplacements artificiels des parties du corps ne sont pas suivis par le sentiment de ces parties ni par les sensations qu'on peut y produire [Starting from Aristotle's experiment the artificial displacements of parts of the bodyare not followed by feeling in these parts or by the sensations which can be produced there]. L'Encéphale: Revue de psychiatrie clinique biologique et thérapeutique, 32, 57–84; 140–158.
- Ehrsson, H. H. (2005). Touching a Rubber Hand: Feeling of Body Ownership Is Associated with Activity in Multisensory Brain Areas. Journal of Neuroscience,25(45), 10564–10573.
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