説明
子供の頃、友人とふざけて叩き合っていたら段々力がエスカレートしていき、ケンカに発展してしまったことはないでしょうか。自分は相手と同じくらいの力で叩いているにも関わらず、相手は自分よりも強い力で叩いてくるように感じられたのではないでしょうか。実は友人が悪いのではなく、自分が発する力の強さを弱く見積もってしまう性質が人間に備わっているためかもしれません。
なぜ自分が作り出した力は実際よりも弱く推定されるのでしょうか? これには人間の予測システムが関与していると考えられています。例えば我々が手や指を動かそうとするとき、脳から手や指の筋肉に向かって運動指令を出すだけでなく、この運動指令を出した結果どんな事態が生じるか(腕や指はどう動くか、その結果どういう感覚が生まれるか)を予測しています。そして、実際に手や指を動かした結果が、予測した結果と同じだったかどうかを比較し、計画した動きが首尾よく達成されたかを判断しています。この予測システムは、手や指の動きが予測通りにいかなかった場合に修正を行うために重要ですが、それだけではなく、手や指に入ってきた感覚情報が自分の行動によるものなのか、それとも何か意図しない外界からの干渉によるもの(例えば誰かがいきなり手をつかんできたなど)なのかを判断するためにも重要です。特に、外界からの脅威に備えるために、予測に沿った自分の行動による感覚情報よりも、予測外の外界からの干渉による感覚情報をはっきりと検出するほうが非常に重要になります。そこで自分の行動によって生じた感覚情報は弱めて(感覚減衰)、外界からの干渉と思われる感覚情報を目立ちやすくするという戦略を取っているのではないかと考えられています。このようにして、自分で生じさせた力はより小さく、他者から加えられた力はより強く感じるのではないかと考えられます。
自分で自分の手のひらやおなかをくすぐってもくすぐったくないという現象も、予測システムで説明できそうです。自分でくすぐった場合はそれによって生じる触覚情報を予測できるのですが、他人がくすぐってくる場合はどのような触覚情報が生じるのかが予測できません。くすぐりによるくすぐったさも、予測していなかった外界からの干渉を目立ちやすくした結果生じた産物なのかもしれません。
参考文献
- Shergill, S. S., Bays, P. M., Frith, C. D., & Wolpert, D. M. (2003). Two Eyes for an Eye: The Neuroscience of Force Escalation. Science, 301(5630), 187–187.
- Weiskrantz, L., Elliott, J., & Darlington, C. (1971). Preliminary Observations on Tickling Oneself. Nature, 230(5296), 598–599.
- Blakemore, S.-J., Wolpert, D. M., & Frith, C. D. (1998). Central cancellation of self-produced tickle sensation. Nature Neuroscience, 1(7), 635–640.
デモのながれ
デモについて
- デモの操作方法については、使用方法のページをごらんください。
- 錯触デモを試される際には、皮膚・身体等に痛みやダメージを与えないよう、刺激強度、刺激方法、道具の操作にお気をつけください。