説明
ゼムクリップの2つの先端を適当な間隔(例えば5センチ)になるように開いて、協力者にその先端を指や手のひら、腕などに押し付けてもらってください。腕よりも手のひら、手のひらよりも指にゼムクリップの先端を押し付けたとき、その2つの先端の間隔がより長くなって感じるのではないでしょうか。人によっては、2つの先端を指先から腕へとゆっくりなぞらせていくと先端の間隔がどんどん短くなっていくように感じるそうです。この現象はドイツの生理学者であるWeberによって報告されたことから、ウェーバーの錯覚と呼ばれることがあります。
身体部位によって2つの先端の間隔が異なって知覚される理由として、触覚受容器、つまり接触に反応する皮膚の中のセンサの密度が身体部位によって異なるためではないか、という仮説が有名です。実際、腕から手のひら、指に向かうにつれて密度が高くなっていく触覚受容器もあり、それにともなって触れた対象の細かい識別が可能になる(触覚感度が高くなる)傾向があります。そして、脳内においても腕、手のひら、指へと、これらの身体部位を表す領域(表現領域)が大きくなっていくことが知られています。触覚受容器の密度が高くなるほど、そして脳内での表現領域が大きくなるほど、その部位における距離の表現も大きくなっていくのではないか、そのため、同じ間隔の2点であっても指先と腕ではその知覚される距離が異なるのではないか、というのが上記の仮説になります。
脳の中の表現領域における各身体部位の大きさは、我々が想像する自分の体とは大きくかけ離れています。この身体部位の表現領域の大きさを人体図上で表現したものがペンフィールドの小人です(画像検索をしてみてください)。ペンフィールドの小人は触覚感度の高い手や顔が奇妙なほどに大きくなっています。ここからもわかるように触覚受容器の密度や脳内の表現領域の大きさは身体部位間によって大きく異なるのですが、それに比べるとこの錯覚(身体部位間での知覚される距離の違い)はかなり小さいことがわかっています。
そこで、触覚受容器の密度や脳内の表現領域の大きさがそのまま皮膚上の距離を表しているのではなく、脳内に自分の体の大きさのイメージが他にもいくつかあって、それをもとに皮膚上の距離が推定されるのではないか、と考える研究グループもいます。実際、指よりも腕のほうが大きく見えるような歪んだ自分の身体の映像を見せられたあとだと、二点間の距離の判断が変化することが示されています。映像によって自分の体の大きさのイメージが影響を受けた結果、そのイメージ上で推定される二点間の距離も影響を受けたのではないか、というわけです。
参考文献
- Green, B. E. (1982). The perception of distance and location for dual tactile pressures. Perception and Psychophysics, 31, 315–323.
- Cholewiak, R. W. (1999). The perception of tactile distance: Influences of body site, space, and time. Perception, 28, 851–875.
- Penfield, W., & Boldrey, E. (1937). Somatic motor and sensory representation in the cerebral cortex of man as studied by electrical stimulation. Brain, 60, 389–443.
- Taylor-Clarke, M., Jacobsen, P., & Haggard, P. (2004). Keeping the world a constant size: object constancy in human touch. Nature Neuroscience, 7(3), 219–220.
デモのながれ
デモについて
- デモの操作方法については、使用方法のページをごらんください。
- 錯触デモを試される際には、皮膚・身体等に痛みやダメージを与えないよう、刺激強度、刺激方法、道具の操作にお気をつけください。