説明
タウ効果は、皮膚上に二つの触覚刺激(タップや振動)をトントンと与えたとき、その時間間隔が長くなるほど二つの触覚刺激の距離も離れて感じられる現象でした。では、その時間間隔が限りなく小さくなると(二つの触覚刺激が同時に提示されると)どうなるのでしょうか。2つの触覚刺激の距離はゼロになって感じられるのでしょうか?
腕上の二点を厳密に同時にタップするのは簡単ではないため、ここでは100円ショップで入手可能な、安価なスピーカーを使ったデモを紹介します。上記の動画を参考にスピーカーを分解し、5cm離して腕に取り付け、音声ファイルを再生してみてください。スピーカーの振動が皮膚を通じて感じられるはずです。
目をつぶって音声ファイルを再生してみてください。振動(音)が3回、順番に提示されます。1つ目の振動はスピーカー(L)の位置で震えたように感じられると思います。2つ目の振動はスピーカー(R)の位置で震えたように感じられるかと思います。では3つ目の振動はどこで震えて感じられるでしょうか? おそらく2つのスピーカーの真ん中の位置で震えたように感じるのではないでしょうか。実際には、2つのスピーカーから同時に振動が生じているのですが、それぞれのスピーカーから2つの振動が出たようには感じられないのではないでしょうか。このように複数の触覚刺激が同時に提示されたときに、中間にその刺激を感じる現象を感覚漏斗現象(sensory funneling)と呼びます。端に液体を落としても漏斗をつたって中央に集まってくるという漏斗の性質に喩えたことから、このような名前がついています。
[ 感覚漏斗現象 音声ファイル1 ]
更には2つの振動に強度差をつけて提示すると、知覚される一つの振動源は2つのスピーカーの中間ではなく、より強い振動を提示したスピーカーのほうに移動します。これを利用して2つのスピーカーの強度差を時間的に変動させたデモが下記の音声ファイルになります。目をつぶって音声ファイルを再生すると、一つの振動源が2つのスピーカーの間を行ったり来たりして感じられないでしょうか。
[ 感覚漏斗現象 音声ファイル2 ]
この錯触は、振動を用いてバーチャルに触感を提示する手法にとっても有用です。腕の上をなにかが動きまわるような触感を提示したい場合、腕中に振動子を張り巡らさなくても、複数個の振動子があれば感覚漏斗現象を用いて腕全体に振動を提示できるからです。このような手法は触覚工学の分野で広く利用されており、ファントムセンセーションという名前がつけられています。
参考文献
- von Békésy, G. (1959). Neural Funneling along the Skin and between the Inner and Outer Hair Cells of the Cochlea. The Journal of the Acoustical Society of America, 31(9), 1236–1249.
- Wieland, B. A. (1960). The Interaction of Space and Time in Cutaneous Perception. The American Journal of Psychology, 73(2), 248-255.
- Gardner, E. P., & Spencer, W. A. (1972). Sensory funneling. I. Psychophysical observations of human subjects and responses of cutaneous mechanoreceptive afferents in the cat to patterned skin stimuli. Journal of Neurophysiology, 35(6), 925–953.
デモのながれ
デモについて
- デモの操作方法については、使用方法のページをごらんください。
- 錯触デモを試される際には、皮膚・身体等に痛みやダメージを与えないよう、刺激強度、刺激方法、道具の操作にお気をつけください。